自己陶酔




×××  岐  路  ×××



語り手:ドム
うい〜す、いかりやチョ〜、じゃなかった。
わしの名前はリック・ドムと申す。 信心深い武闘派鍛冶屋じゃ。


さてさて今回の依頼はというと、
新米冒険者の小僧どものお守という、なんとも面倒な仕事なのだ。
まあ、若さだけが取り柄なのだからエネルギッシュに頑張りんさい。

右がルカ、左がパウロ。

ほんでもって、若僧どもの初仕事「オーガー退治」に出かけるのだった。

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オーガーの気配を察知し、散開しつつ慎重に森を進むわし等。 だが―

「痛ぇッ!」

周りに気を取られ、足下の注意を怠った阿呆マルスが罠に引っ掛かりおった!

この間抜け! 足手まとい!

オーガーに捕まり、今にもかじられそうになっているマルス。
さやうならマルス君、これで貴様も二階級特進だ―
誰もがそう思った瞬間
一条の閃光が大気を切り裂き、光りの矢がオーガーの肩を貫いた。
なんと、あの新米冒険者のルカが、
オーガーの後方に回り込んで魔法の矢で援護してくれたのだ!

その機を逃さずマルスはオーガーの腕から逃れ、
わしらはクランを中心にした戦闘隊形を素早く組む。
さぁ、後は集団リンチでボッコボコだぁ。

さすがは女王、じゃないリリン様!

マルコとジャンの鉄拳が、マルスの居合切りが炸裂し、
止めにリリンの鞭でズタボロに打ち据えられる哀れなる食人鬼…。
心からご冥福をお祈り致しますチーン。

見事に依頼を成功させた我らソリッド・ステイト・サヴァイバーズ(SSS)。
でも、おや? 威勢のいいパウロのぼんずがいない…。

「逃げたわね。」

リリンの言葉に溜息をつく仲間達。
パウロの相棒であり、今日のMVPであるルカは、暗い表情で地面を見詰めていた。



宿に帰り着くと、パウロがいた。

初めて会った時の、人を喰ったようなふてぶてしさは鳴りを潜め、
代わりに他人の顔色を窺うような卑屈さと、そして惧れの表情が彼の顔にこびり付いていた。

そして、パウロは自ら犯した失態のために、再びわし等の前から逃げ出した。

まあしかし、"逃げる"事は動物としては悪い事ではない。
逃げ出す事で、少なくとも己の生命は守られたのだから。

しかし、己の生命を賭けてまで貫き通す生き方もあり、
それこそが、人間と動物を決定的に隔てている事も事実なのだ。

はふ〜〜〜…、あ〜、くたびっちゃ。

依頼は確かに成功したが、一人の若者の自尊心は破壊された。
どうしようもない事とは言え、やるせなさと後味の悪さに、わしは思わず溜息を吐いた。




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